1999/11/04 更新

硫酸ナトリウム法・ナフサ法併用による軟岩試料の分散

 ある程度固結した岩石中から微化石などの粒子を分離するために,多くの研究者がさまざまな工夫を凝らしてきました.固結した岩石であればその薄片を作成して見るのがスジ,ともいえますが,立体的な構造の検討には不十分ですし,薄片作成にはある程度の熟練が必要で面倒,という問題もあります.また微化石試料を化学分析などに用いるときには,多くの場合試料の分離が必須条件となります.

 第四系や深海掘削試料など,一般にあまり固結が進んでいない試料を対象した研究であれば,過酸化水素水を用いる方法が一般的です.凍結や煮沸といった純粋に物理的な方法も有効でしょう.ガチガチのチャートにフッ酸をぶっかけたら放散虫がぽろぽろ出てきた,というのは,ほとんど偶然に発見された方法だとも聞いております.珪酸質の殻をもつ放散虫なら,酸処理は極めて有効な方法の一つといえるでしょう.しかし有孔虫など石灰質の粒子を取り出したい場合には,酸処理などとんでもない話です.花粉や渦鞭毛藻類などの処理では,ある種の有機物を分解する目的を兼ねてアルカリを使用するそうです.

 ここでは,第三系泥質岩試料からの微化石の抽出に広く用いられている,硫酸ナトリウム法・ナフサ法併用による岩石試料分散法について紹介します.硫酸ナトリウム法は結晶成長を利用して試料を物理的に脆くする方法で,ナフサ法はある程度脆くなった試料の泥化に効果的な処理法です.私がおもに扱っている中国地方内陸盆地の新第三系泥質岩試料の場合,通常硫酸ナトリウム処理1回,ナフサ処理2回程度で概ね良好な結果が得られます.さらに固結した試料,たとえば日本海側の新第三系に多い硬質頁岩などの場合,ここで紹介した方法では十分な結果は得られません.カリボール法という方法もあるようですが,こういった試料はそもそも微化石の抽出に向いていないようです.硫酸ナトリウム処理の後,ナフサではなくヘキサメタリン酸ナトリウム処理を行うこともあります.ナフサよりもかなり手軽にできますが,表面がわずかに溶解する場合もあり,注意が必要です.いずれにせ,はじめの硫酸ナトリウム処理をしっかりやっておかないと,ナフサやヘキサメタリン酸ナトリウムの段階でも十分な効果が得られません.

 以下の方法で抽出した試料が,微細構造の検討に堪えるものであるかどうか,あるいは化学分析に供する試料の抽出法として適当であるかは,全く別の問題です.従来こういった分野の研究は,第四系や深海掘削試料など,一般にあまり固結が進んでいない試料を対象として多くなされてきました.試料分散方法の確立は,これらの研究手法を陸域第三系などに適用する上で,極めて重要であると私は考えます.分散法が各研究室の「企業秘密」となってしまうことを,私は最も恐れます.論文には分散法について明確に記述しましょう!

 ここでのの説明では不十分な点も多いと思います.詳細については,以下の参考文献なども参照してください.本ページでは,雰囲気をつかんでいただければと思います.


[参考文献]


980704-101818.jpg 硫酸ナトリウムの過飽和水溶液をつくります.豪快に直火でやってますが,硫酸ナトリウムはかなり突沸しやすいので十分に注意!サンドバスの使用がベターです.
980704-101842.jpg チップ状(概ね1cm以下程度の大きさ)に砕いた試料をビーカーに入れ,恒温乾燥器で十分に乾燥させます.80℃で24時間程度は乾燥させたいところですが,分析の目的によっては,より低い温度で乾燥させる必要があるため,さらに時間がかかる場合もあります.
980704-101909.jpg 熱い試料に熱い硫酸ナトリウム過飽和水溶液を注ぎます.試料が完全に浸る程度まで注いだら,染み込むのを助ける目的で,ビーカーを軽くゆすります.しばらく放置してから,余分な水溶液を漏斗で回収します.
980703-134452.jpg この状態で一昼夜程度放置します.暑い季節なら,さらに時間がかかるかもしれません.ビーカーの中は,写真のように試料が傾いた状態で放置します.試料が水平にならされた状態で放置していると,結晶の成長によってビーカーが壊れる恐れがあります.結晶が成長して白い粉に覆われたようになったら,篩いで水洗します.篩いの目のサイズは,当然目的とする粒子のサイズによって異なりますが,小型有孔虫を対象とした研究の場合,一般に75マイクロメートルのものが使われるようです.水洗済みの試料をまた乾燥させて,次の処理に進みます.
980703-141056.jpg 上記の硫酸ナトリウム法で試料がある程度もろくなったら,次はこのナフサ(粗製ガソリン)の出番です.当然非常に引火しやすいので,消火設備がしっかりした場所で処理しましょう.処理室は整理整頓!
980703-141132.jpg 硫酸ナトリウムの時と同様,試料が完全に浸る程度にナフサを注ぎ,ビーカーを軽くゆすってからしばらく放置します.十分に染み込んだら,画像のように余分なナフサを回収します.
980703-141358.jpg このビーカーにあらかじめ作っておいた熱湯を加え,ドラフトの中のサンドバス上でぐつぐつと「煮込み」ます.たまにかき混ぜてやるといいでしょう.ナフサが飛んで引火しないよう,十分に注意しましょう.ここでは,天ぷら用のガードを使用しています.
980703-134902.jpg 延々と1時間程度「煮込み」ます.目を離すわけにもいかないし,暑い季節には中華料理屋の厨房状態となります.手前のビーカーはかなり煮詰まり,水の量が減っています.そんなときは…
980703-135330.jpg このように熱湯を加えます.電気ポットなどでお湯を用意しておくと便利です.
980703-140959.jpg 水面に油膜がなくなり,ナフサが完全に揮発したら,火から下ろして終わりです.あとはまた,篩いで水洗します.ナフサはクリーニング効果抜群で,細部に詰まった泥をきれいに洗い落としてくれます.
980802-091103.jpg 篩いで洗った試料は,ほとんど砂サイズのものしか残っていないことでしょう.十分に分解していなければ,再び乾燥してナフサ処理をもう一回繰り返します.あとは分析の目的に応じて分割や標本の拾い出しを行います.
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